「西田学人生初の京都へ行く」第33話「なぜ神聖な甘味所で居酒屋のノリにならなければならなかったのか」
33話
早速注文である。
小野田くんは特製わらび餅抹茶セット
小杉Bは抹茶クリームパフェ
三上は白玉ぜんざい抹茶セット
そして俺は栗白玉ぜんざい抹茶セットを注文した。
その後の待ち時間は今まで通りスマフォ二人文庫本一人たたずみ一人のセットだった。そうしてついにメニューが届いた。
四品全てがお盆に乗せられておりさらに全員に小皿に山盛りの塩昆布が配られた。
なるほど。同じ甘い味だけが続くとどんどん一口目の味から遠ざかり甘味を真に楽しめない。だから時折この塩昆布を挟むことによって味覚を一回リセットさせて
ずっと一口目の味を味わえるようにしているのだ。なんて知能的な店だ。
一同「いただきまーす。」
ぜんざいをすする。
ズズゥ…
あ~温けぇ~…、甘んまいしうんまい。
そこに白玉である。
白玉は通常の四角い餅と違い炭で
焼くことによってできる表面のパロパリとした硬さがない。
つまり100パーセント柔らかい弾力を楽しめるのだ。
モチモチが好きな俺にとってこの違いは大きい。
そこにさらに栗ちゃんである。柔らかい白玉、そして硬い栗、この二つの食感の違いを同時に楽しむという天才的なメニューだった。
そして四、五口目で小皿に盛り付けてある塩昆布をつまんで口に入れる。
美味い。この塩気、見事に舌がリセットされた。
栗白玉ぜんざいと塩昆布。
どちらも単体では楽しめない、二つあわさって最高に楽しめるコンビなのだ。
そして締めに抹茶、これで苦味も楽しめるというこのお盆内はちょっとした味覚の小宇宙状態になっていた。他のみんなもうめー!と連呼しながら食べ進める。
我々はこの甘味所で最高に癒される時間を過ごした。
ここまでは。
三上がとんでもないことを言い出したのだ。
三上「西田残った俺らの塩昆布食え、」
最悪の命令が発令された。
え、塩昆布だけを食べろと。この量を?あ、一回で?
実際塩昆布はかなりの量残っていた。その理由の一つは元の量が多いこと。
俺は甘味と交互に食べ進めたにもかかわらずぜんざいを全て食べ終えても
ある程度残ってしまい温かいお茶と一緒にゆっくり少しずつ完食した。
しかし他のみんなは自分の甘味が食べ終わったらそこから先はノータッチ。
さすがの小野田くんもこんな事態になるとは思わなかったのだろう、少しだけ残していた。そしてもう一つはそもそもぜんぜん手をつけなかった人がいたこと。
それが発案者三上のことである。
彼は二日目の明日香村サイクリングの昼食の柿の葉寿司が食べれなかかったなど食べ物に好き嫌いがある。おそらく磯系統の食材に苦手意識があるのだろう。昆布にもほとんど手をつけなかった。
そんなわけで食事が終了した後も塩昆布はテーブル上に残っているのだ。
ちなみに今俺の目線の先では三上が
ちゃんと3人分の塩昆布を一度に食べやすいように一つの小皿に塩昆布を集めて入れている。てか溢れたぞ、三上。それ本気で俺に食わせようとしてるのか。
俺は必死に一般論で逃げを図る。
俺「いや、食べ物で遊んじゃダメだって…」
三上「遊んでねぇぜ、処理するんだよ、残っちゃったから。」
俺「いや、だってさ、この塩昆布はね、
和菓子で舌が甘くなっちゃうのをリセットする目的で置かれたんでしょ、
甘いものがない今、この塩昆布を食べる目的もないよ。」
三上「でも、この塩昆布は捨てられるんだぜ、それなら食ったほうがいいだろ、」
俺「いや、そりゃ良いっちゃ良いけど、良いだけで義務じゃないじゃん。」
小杉B「いいから食べろよ。」
俺「いや、いいからってなんだよ、小杉、よくねぇわ。」
小杉B「お前食うまで帰れねぇぞ。」
出た脅し。この食わないと何にも進まないぞ的な脅し文句。得意中の得意ですコイツ。でもさすがに今回は折れないって小杉。唐突すぎだもん、あまりにも。
お前のそのドスの効いた脅しにもさっきので正直慣れちゃったし。
俺「いやぁ~…これだってどんだけ塩分あんの?」
小杉B「うるさい。つべこべ言わずに食べろ。」
俺「いや、おかしいもんこんな良い雰囲気の甘味所で
学生の居酒屋打ち上げみたいなこと…」
小杉B「食べろよぉ。」
俺「食う義務ないじゃん!」
そうなのだ。毎回思うがこういったやれよ的なことには正当な理由がない。
この時そういった理不尽さに敏感になっていた俺は頑なに拒絶した。
小杉B「食えよぉ!」
俺「やだ!」
小杉B「食うまで帰れねぇぞ」
俺「食わなきゃいけない理由がないじゃん!」
三上「あるぜ。」
ここで三上がにっこりスマイルで口を発した。え。あるの?
俺「なに?」
三上「俺たちを楽しませるため、さっきお前のせいで無駄に迷った時の償い。」
この返しは予想外。完全に考えてなかった。そことそこが結びつくなんて。
そうか。そう来ちゃいますか。それ出されたら何にも言えないわ
俺は何か自分が悪いことをしたらその償いをする。その時本当の意味で気持ちが切り替えれるのだ。わかったよ。やってやるよ三上。これで今日午前のことを償えるなら。やってやろうじゃないの!
俺「わかったよ。やるよ。」
三上「この皿にある昆布全部な。」
小杉B「一口でな。」
二人とも超悪い顔だ。
俺は向こうの提示を無言でうなずき全て飲んだ。小皿をテーブルから手で上げる。
ずんっ。
なかなか重かった。
親指と人差し指だけで持ち上げられると思ったがすぐに持ち方を変えた。
手のひらで小皿を持ちながら俺は三人を見た。
全員が見守っている。本当に大丈夫だろうか。
一瞬そう思ったが俺は小皿を置かなかった。これを行い償いをできることに少なからず安心している自分がいたからだ。ドMじゃない。償えるからだ。
娘のためなら全裸にでもなるという考えを露出狂とは言わないように
塩昆布大食いを俺が受け入れたこともドMではない。
俺はその小皿を。一気に口へ傾けた。時が一瞬止まった。
どさっという音とともに昆布の柔らかさ、
塩のザラザラとした食感が全身に伝わった。
そして俺は軽く世界保健機関が定めた1日の塩分摂取量の目安を超えた
大量の塩を口に含み込んだ。
うぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぇっっぇえっっ!!!!!!!!
ちょ!おっちゃ!お茶!茶!茶!
「んっ!んぅんっんんんんんぅっ!」
すぐさま俺が飲んでた湯飲みお茶を口に持って行きかかげるが!
ポタポタ
さっきぜんざいで全部使っちゃった!
おおおうぇぇえっえっ!
「ちょ!これガチで…死んじゃ…うえぇええ…」
自然と出たものだがが少なくともかなりのリアクションだっただろう。
これで俺のリアクション待ちの水泳部どもは満足するだろう!
どうだ!笑え!喜べ!これが償いダァアアア!
小杉B!三上!なんとか言ってみやがれぇええええ!
小杉B「そろそろ行くか。」
三上「ぜんざいうまかったなぁ~」
小野田くん「お会計は入り口でするんでしょ。」
触れられなかった。
まさかのノーリアクション事件ののち我々は1階でお会計をした。
その後各自でお土産を買う。
続く
PSいまだにこのやり取りは謎