「西田学人生初の京都へ行く」第44話「小杉Bから開放された西田はどこへ向かったのか」
44話
11:03
いよいよ残された修学旅行のイベントは一つ。東寺散策である。
ここでも和菓子作りのメンバーが続行され再び中学生三年全員が集合するのはしおりによれば12時30分である。
朝は肌寒かったが段々と日が昇り始め暖かくなってきた。
この東寺はやはり世界遺産に登録された文化財の一つであり特徴的なのはこの建物が日本史上初の密教寺院であるということだ。
とりあえず12時まで自由時間。好きに歩きまわっていい。
青春野郎は他の友だちとくっつき小野田くんとも別行動になった。
しかし俺のそばには小杉がかならずいる。
この京都旅行で彼が横にいない場面はそうそう書けてない。
この膨大な小説の中でもきっと数ページだろう。
そんな小杉は相変わらず俺にちょっかいをかけてくる。
思えば二日目に移動時間中のバス内で始まったカメラいじり。
当然今日もすでに書いてないだけで二回ほどされている。
言ってみれば小杉Bはカメラいじりのベテランになっていた。
細かい部分に磨きがかかってくるのだ。
すべての始まり。初々しい一回目。この頃のヤツはまだかわいいレベルだった。
いや、嫌ではあったけど。
そうじゃなくて、カメラいじりを始めだした頃のヤツにはまだ迷いがあったのだ。
カメラを西田から奪ってはみたもののどうすればいいんだろう。
困惑、自身の突発的な行動に伴う「この後どうすればいいんだ」的な困惑。
そんな感情が彼の顔の表情から明らかに察知できた。
彼はカメラなどには全く興味がなく俺と違い動画とは無縁の人生を生きてきた。
当然カメラを渡されてどうすれば良いのかもわからなかったのだ。
後は俺が適当に嫌がりカメラを返してもらえばいい。いじりは1分も経たないうちに終了。完全に俺が小杉Bを操っていたのだ。
そう初日のあいつはカメラいじりを
ただ俺が持つ所持品を奪い俺を困らせるレベルのいじりにしか捉えていなかった。
しかしはやくもその日中に奴は気づいてしまった。
カメラという電子器具には動画という映像が撮影できることに。
そう、これによって奴は無駄な映像をとって俺をさらに不快にさせるという
いじりの表現性を飛躍的に上昇させた。それと同時に
いままでは単に所持品を奪うというくくりのいじりだったカメラいじりが無駄な動画を記録することによって相手に不快感を与えるというカメラでしかできないいじりの表現方法を生み出したため
独立したいじりの新たなジャンル、境地を切り開いてしまったのだ。
その後も彼はさらなるカメラいじりの発展に尽くした。
農村の発展なんかに力を尽くすのは多くの利益を生むため大いに意味のあることだ。ただ小杉Bの場合、彼が力を尽くして生まれる発展は俺に対する不快度を
増大させるだけであり全く意味のないことなのである。
そんな完璧な理屈をつけて彼に訴えかけても当の本人は布団の上でこちらを見向きもせず目の前にある俺のカメラをニヤニヤとこねくり回し続けているのだ。
動画を撮る新たな工程が加わったことにより初日のようにすんなり返してはくれなくなってしまった小杉。初回は1分で片が付いたが二回目からは軽く5分、10分を要するようになった。
そして三日目。奇跡が訪れる。なんとこの日小杉Bは一度もカメラいじりをしてこなかったのだ。実は考えてみれば当たり前のことである。
この日は京都自由行動の日。外での行動が最も多かった日にも関わらず外の天気は終始雨。防水機能が付いているとはいえ必然的にカメラを出す機会が減ったのだ。
小杉Bのカメラいじりは俺が動画を撮っているカメラを横から強奪することによって発動する。そのためそもそも発動条件自体が少なかった三日目は小杉Bも俺のカメラに手が出せなかったのだ。
そして迎えた最終日。
満を持したかのようにカメラを横から奪う小杉。
「待たせたな。昨日の分を取り返すぜ。」
そんな声が彼のその生き生きとした表情を見ていると聞こえてきた。
別に待ってる人なんて誰もいないし、満を持すほど大層なもんじゃないのだが
最終日だからか今日の小杉は一味違う。
驚くほどにハイペースだ。もう今の時点で3回かまされている。
まさにノリノリのカメラいじりである。
この東寺での自由時間。例によって目の前のどでかい世界遺産を目の当たりにした俺は不覚にもヤツの横で銀色のカメラを茶色のポーチから出してしまったのだ。
俺「紅葉がいい感じですね。」
小杉B「動画撮ってんの?」
しまった。
俺「ね…ちょっ…」
奪われた。画面いっぱいに移る小杉Bの顔。
小杉B「ちょ、撮るな撮るな。」
記者会見などのマスコミを取り押さえる人みたいに言う田中。
俺「ちょ、お前関係者か!」
小杉B「撮らないでください。」
いかにも撮影禁止を注意する人っぽい言い方だ。カメラを手で覆い隠す小杉。
俺「やめぇ!暗い暗い!つまんない!」
その後も小杉はカメラを渡さない。着々とブレブレの動画が生まれていく。
小杉B「ジーーー」
ずっと俺の方を撮る小杉。
俺「もう文化財撮って!俺じゃなく!」
俺の顔を下あごから撮る小杉。
小杉B「うわwwwwきもっちわりぃ。」
俺「気持ち悪いじゃねぇよ!」
しかし実質これがこの修学旅行での最後のカメラいじりとなった。
そう思うとなんだかもう少し優しく接していればと、今となっては思…
思わない。全然思わない。そんなこと。
建物内はいい感じに落ち着いており中でおみやげを勧めているおばちゃんたちが
梅茶を薦めてくれた。建物自体もかなりしっかりしていて平安時代に建てられたものとは思えない頑丈さがあった。
12:18
こうして俺達は東寺の見学を終えた。
これにて京都修学旅行のすべてのイベントは終了した。後はもう帰るだけである。
我々はバスに乗りとある建物へ向かった。そこで一時的に昼食をとった後に
京都駅で全員が集合する。
俺はいよいよこの旅行が終わるのを感じていた。
今日は月曜、とっくのとうに今週の仮面ライダードライブは終わっているのだろう。
今年の9月から始まった仮面ライダードライブは今のところ面白くない。
最近の仮面ライダーは内容が子供向けすぎるのだ。CGを多用できるようになった反面2000年代初期に見られた一話に一台車を平気で壊す実写的な豪快さは無くなった。予算削減かまたは教育の問題か。どちらしても俺にはCGを使っている今よりも
一昔前の仮面ライダーのほうが話に深みがあり、安っぽさもなく思えてしまう。
これでは他の友だちに仮面ライダー面白いよといっても子供っぽいと馬鹿にされてもしょうがない。特に去年の仮面ライダーウィザードはとても子供向けの番組だった。オンエアでみないのはもちろんのこと、時には何週間分も溜まっていたこともあった。そして普通に会話で
「今日ウィザード見るか。」「何話溜まってる?」
「三話だって」「前四週たまってた時あったよね。」
「いやあの時は一週ゴルフで休止になったから話数一緒だよ。」「そっかそっか。」
みたいな一昔前ではありえないような会話が繰り広げられていた。
今年の仮面ライダードライブにも時折ウィザードでのデジャヴを感じることがある。まぁ今年の冬の映画は見に行かないかな。
そんなこんなで我々は旅館についた。
選択したコースによってそれぞれ昼食を食べる場所が違った。
ラインナップは「ホテル佐野家」「ホテルりょうぜん」「おかべ屋」の三種。
俺たちはホテル佐野屋だった。
佐野屋はかなりさっぱりした感じだった。
ホテルより旅館という和風な言い方のほうが似合ったイメージだった。
宴会などが行われるような大きな和室に案内されると
部屋の前には「平岡中学の皆様」という書道の文字が書かれていた。
全員が荷物を置いていく。そして昼食タイム。
俺と小杉はかなり机の端の方に座った。反対側の端にはおたべ体験の引率の先生である英語の先生が座っていた。食事は純和食でとても美味しかった。
そういえば京都で食べる食事もコレで最後だ。
そしてごちそうさま。
その後先生からの指示がある。指示によるとここを出発するのはしおりよりも早い時間に変更になったらしい。
どうやらことが予定していたよりも早く進みすぎたらしい。俺はトイレへでかけた。流石にトイレにまで小杉はついてこない。
トイレは和式だったのでするのが大変だった。ともあれ俺は目的を果たした。することもなくなったし例の和室へ帰ろうと思った。
しかしここで俺はあることに気づいた。
今の状況は俺が小杉Bから開放されている数少ない機会なんじゃないか?と、
帰れば当然小杉Bに俺がトイレを終えたことが確認されてしまう。
これはただで帰るのは惜しい。せっかくこの一人フリーな状況を手に入れたんだ。
何か道草を食って和室へ帰ってやろう。
今俺がいる場所はこの建物において二階だ。しかしどう見ても二階止まりの建物じゃないことは外見を見た時から明らかだった。
ほら、やっぱりな。ちゃんと上へ階段が続いているじゃないか。
もうここには来ないんだ。いまこの階段を登らなければ俺はおそらく一生後悔することだろう。いくしかない。そこで俺は階段を一段ずつ登っていた。
幸い明かりは付いているので怖くはなかったし、ここからさき立入禁止の札も貼ってなかったので罪悪感もそこそこですんだ。三階はまったく二階と同じ構成だった。
和室がありトイレが有り壁が白い。以上。
一通り調べた結果三階は無人だったので俺は平気で下ネタを連発した。
久しぶりに外で「おっぱい」って口に出した気がする。
四階はあったけど暗かったので行かなかった。
PS
次回帰宅です