「西田学人生初の京都へ行く」第26話「行事での班員選びに隠された闇とは」
26話
三日目
チッ…チッ…チッ…チッ…
6時29分56秒
チッ…チッ…チッ…
57、58、59…
チッ
6:30
ピンポンパンポーン
「平岡中学様の皆様おはようございます。
起床時間の6時30分となりました。身の回りを片付け、出発の準備をし、
7時に昨日の夕方と同じ食事会場にお集まりください。
また、風呂場などでの忘れ物がロビーに置いてありますので
心当たりのある方は取りに来てください。
平岡中学校の皆様おはようございます…」
恒例の起床放送は昨日と違って今回は先生ではなく旅館の亭主によって行われた。
昨日は周りが誰一人起きなかったことから放送が夢だと錯覚しかけてしまったが
幸い今日は小野田くんがメガネを掛け時計を見る動作をしてくれたので錯覚せずに済んだ。割と全員早く目覚め45分くらいには三上は洗面所でうがいをしていた。そして会場に移動。朝食の時間である。
メニューはシャケの焼き魚、味噌汁、切り干し大根、サラダ、オムレツ、ヤクルト
以上である。
先生の話が始まった。
レンタサイクルで出くわした数学科の先生の話。
「じゃぁ、改めておはようございます。
え~っと外はですねぇ雨が降っています。はい、残念ながら。
ちょっと朝ですから、今はまだ寒いですね。
今日は1日ですね、自由行動。になってます。
計画通り、なるべく行動してください。今日はですねぇ、日曜日ですね。
どんどんどんどんこれから観光客が京都市内に入ってきて、えぇ特にですね、繁華街の所を中心に、四条とか三条とかですね渋滞が起きますね。
で、そうするとバスもなかなか上手く繋がらないってこともね、覚悟してください。
もちろん自分たちの計画をですね途中カットするっていうことも考えなきゃいけないです。別にあの、スケジュール通りにやれっていう風には言ってませんからね。
自分たちで臨機応変にして、四時から四時半の間にこの旅館に戻ってくるようにがんばってください。はい。」
その後も話は続いた。主に今後の流れを時刻に沿って確認していた。
「…はい、じゃぁ以上です。連絡は。えぇ~いただきますをしてもらいましょう。」
いただきます係「いただきますっ」
「いただきますっ!」
朝食開始。もれなく小杉Bはサラダに含まれていたトマト、およびオムレツを丸々一個俺の皿に乗せた。いい加減慣れたので無言で食べた。
その後小杉Bは付属のケチャップを使いオムレツに文字を書きぐちゃぐちゃにしてきた。そうして朝食が終わった。
この京都内班別自由学習に至るまでは実は年蜜に計画が立てられていた。
まず1日の行動予定表の政策。
出発は全班共通で旅館からなので一番初めには「石長松菊園」と書かれる。
そのあとは各々の好きなように回りたい場所を記入していく。
何ヶ所までとかいう制限はなし。
ここからその班一つ一つのオリジナリティーができパターンが枝分かれしていく。
ちなみに全てのポイントに巡る理由、何分間滞在するつもりかを書かなければならない。
時間は授業3コマ分が用意され毎回授業ごとに京都を巡る班で集まり話し合うのだ。しかし我々の班では当時それすらもままならない状況だった。
なぜなら班内で内乱が起きていたからだ。
起こしたのは小杉Bと三上。
そしてその内乱の原因が小野田くんだったのだ。
きっかけは当日の行動班を作るときからだった。
学校行事の行動班決め、それは時間を共にする生徒選び、
できるだけ面白いやつを自分の班に入れようと
毎回クラスの主要メンバーを取り合う大乱戦が起きる。
しかしそれは同時にニーズが少ない生徒が取り残されてしまう現象を生む。
今回も例外はなく数人が残りはじめいていた。
言ってしまえば必要とされなかった生徒たち。
ここに入る人達には共通してある点においての弱さがある。
それは力の弱さ、学力の弱さ、精神力の弱さでもない。
つまり周りの生徒との関わりの弱さである。
関わりが弱いとはどういうことか。
これは自分の基本情報がそもそもクラス全体に知られていないということだ。
「私はこんな口調でしゃべるんです。」
「下ネタは行けます。」
「AKBは詳しいです。」
上にあげたような情報はプロフィールには載っていない。
何気ない日常的な会話を重ねることによって初めて分かる情報なのだ。
このような幾つかのチェックポイントがわからないので誰も話しかけられない。
情報公開をしないからだ。
自分をあえてミステリアスな人物に仕立てあげたいのなら別だが
いつまでたっても自身の性格、面白いかそうでないかなどの情報が相手に
伝わらない場合そのうち相手は面倒になり見限ってしまう。
「気軽に話したいのになんで大問みたいに相手の情報を解いていかなきゃいけないわけ?こっちは気軽さを大事にしているんだ。いつまでもそっちが答えを提示しないなら初めから答えが出てるわかりやすい人の方に流れるだけさ。」
見限った相手の潜在意識が思っているだろうセリフだ。
日常生活の中、生徒間における会話は常に行われる。
それによって生徒同士は情報を知らず知らずのうちに公開し合っている。
新学期、新年度などの一度なんらかの区切り目で関わりを持てずスタートする。
すると周りにどんどん情報による差をつけられる。ついには話したくても話せない状況が出来上がってしまうのだ。一番初め積極的に相手との関わりを持たなかったことから彼らはそのような場所に置かれている。
ここまでが彼らについての冷静な分析。
一転してここからは感情論で進む。
なぜなら俺がとってしまった行動が非論理な感情的なものだったからだ。
あの時。班決めの際俺はいつものように小杉Bと一緒に組んだ。
この時点では小杉Bの精神状態は安定。
次に三上もいつも通り加わる。
ここまで二人の精神状態は良好。
黒板には枠がチョークで引かれそれぞれの班を表しており、
さっそく黒板に三名の名前を書いた。
しかしここからだった。
班の最低定数は四人。
今いるのは小杉Bと三上と俺。
一人足りなかった。
必然的に人探し。最後の一人を我々三人は求めていた。
小杉Bと三上は話し合いを始めた。誰が欲しいかを話し合っていたのだ。
小杉Bは島田くんを候補に挙げていた。
しかし俺はその会議には参加せず行動を起こしてしまったのだ。
向かった先は一つ。
彼は行動を起こし周りの人に積極的に話しかけていた。
おそらく彼は自分を班に入れさせてくれと言っていた。
でも結果は出ていないようでいまだに一人のままでいる。
そして俺は小野田くんに話しかけた。
俺「あの…小野田くん…入る…?」
こうして俺は小野田くんを班に入れた。
二人の精神状態に異変が生じる。
黒板に小野田くんが名前を書きに行った。
小杉B「オメェなんであいつ入れたんだよ?」
俺「いやしょうがないだろ!島田くんもう他の班に行っちゃってたし…」
必死にしょうがなさをアピールするが実際は俺の独断による行動だった。
こうして全くどんな人かもわからない小野田くんが入ったことによって
小野田くんを受け入れる派閥、受け入れない派閥に別れ内乱に発展したのだ。
それでも二回目の時間までは小杉Bと三上は自分から発言しない小野田くん
をいいことに小野田くんに話題をこちらから振らないことによって
小野田くんをまるで正式なメンバーでないかのように扱っていた。
俺は小野田くんにこういう方針でいいかどうかと班の考え方の流れが変わるたびに尋ねた。
その都度小杉Bと三上は「なんで聞くんだよ」みたいな顔をしながら
小野田くんの発言を待たなければならなかった。
PS ちょっとシリアスになってきます。