「西田学人生初の京都へ行く」第43話「俺が創りだしたオリジナルのおたべの味はどうだったのか」
43話
正真正銘京都発祥の伝統的な和菓子八つ橋をつくる事になった俺たち。会社が会社だから鉄のテーブルや壁が鉄製のギンギラリンとした場所で制作するのかとぼんやり思っていたが普通に木製の机に風呂敷が敷かれている全体的に〈木〉感が漂う場所での製作となった。
我々八つ橋の製作に関しては全員が素人。よって指導してくれる人間が必要。おばあちゃん、おじさんたちが前に出てくれて丁寧に説明をしてくれた。さらにそれぞれの机にも一枚ずつ作り方を書いた紙がおいてあるので非常にわかりやすい。さらに目の前にはボウルの中に白い粉、そして横には いろいろな材料が入っていた、おばあちゃんたちはこれで生地を作るのだと言っていた。
これが八つ橋の皮の部分になる。てっきり生地ははじめの段階で用意されているのかと思っていたが、これも皆で作っていく。
次に机上の中心には3つの容器がありその中には茶色、緑色の粉末がこんもりと入っていた。これがこの甘いだけの生地に味の特徴をつける
秘密の粉末だ。つまり茶色はシナモン、緑色は抹茶の粉末だ。これを生地に練りこませ味をつけていくらしい。あとはビニール手袋、伸ばし棒などの道具が置いてあった。いよいよ八つ橋おじさん、おばあちゃん指導のもと制作が始まった。
まずはボウルにいろんな材料を入れて混ぜる、その後こねて正方形に形を整えたものを蒸して皮を作る。皮を蒸すのに20分かかるということなので我々は
時間を効率的に使うため一旦製作から離れて工場見学に移った。
9:30
工場は階段を降りたところにあるらしい。
俺は小杉Bと一緒に下へ向かっていった。
工場についた。ガラス張りの向こう側にはさっきの鉄のイメージがそのまま具現化されていた。四角状の機械がポンポン様々な縮尺であちらこちらにあり、
その空間内を全身白い服を着た従業員がずっと動き続けている。
そしてなんと我々が立つガラスの目の前の機械からは八ツ橋の皮が綺麗に出され続けていた。右側は緑、左は茶色だった。その色づいた生地は色に乏しいこの空間内ではひときわ目が行った。そう小杉と俺がいろいろなものに目を奪われていると、
おばあちゃん「はいそしたらこちらがおたべの工場になりますね。そしてですね、こちらの方では常に五種類から六種類のおたべを作ってます、」
おぉ、おぉ。びっくりした。おたべの作り方を教えていたおばあちゃんがそのまま工場見学のガイドも引き継いでいた。普通に先陣に立って工場まで案内してたから
(あれ?生地の出来とか見てないで良いのかな?)とか思っちゃったけど
まさか彼女がそのままガイドさんだったなんて、一人二役じゃないか、
すごい。あの声が若いバスガイドさんに匹敵する人間だ。
おばあちゃん「手前の方の機械で作ってるのはニッキ、抹茶につぶあんがはいったものになります。」
その後はおたべがどう機械によって作られていくかが説明されていった。
おばあちゃん「そして、一つの機械では1時間に1万のおたべを作りまして、
まず、右端の方から黒いところがあるとおもいます、そちらに生地を入れ込みます。
入れた生地にきなこを振りかけながら3ミリ程度に伸ばします。伸びた生地の上にあんこを七グラムのせまして、そして、正方形に切り、三角に折るという作業までを機械がやります。」
おばあちゃん「そっからさきは人の手によっての詰め合わせになります、
そしてその詰めあわされたものをトンネルを通って、防腐剤、そしてビニールパッケージの中に入れられて、最後箱詰めという形になりますね。」
俺は小杉Bが映りたがって画面に顔を出してくるのをどけながら手作業の様子を撮っていた。普通に工場内を撮っているがこれはセーフなのだろうか?
こんな大企業のしかも全国の八つ橋を制作している工場を撮影したら
十年以下の懲役、または一千万円の罰金、またはその両方が課せられる気がする。
おばあちゃん「大体1時間に1万のおたべを作り、今日は…ん~…30万弱かな?
のおたべをこちらの方で全て作ってます。で、全国で売られているおたべ。こちらの工場が全て作っていますね。そして、2番目のところを見てください。
若干生地の色が異なっているのと、あんこがつぶあんではないと思います。こちらの方期間限定の〈秋おたべ〉というものになります。こちらつぶあんではなくって、
つぶ栗のあんこと、紫芋のあんことなっています。」
おぉ~美味しそう。説明聞いてるだけで美味しいのがわかる。
おばあちゃん「では、せっかくですので皆さんにできたてのおたべを召し上がっていただきたいと思います。」
キターー!待ってました試食タイム!やっぱ君はわかってるおばあちゃんだ!
もうバスガイドさんより全然優秀!でもどこで食うのかな?立ち食いって京都の人礼儀気にするからあんまり勧めないと思うんだけど。できれば座りたい。
おばあちゃん「では、後ろの椅子数が限られています。早いもんがちです。はい座る!」
椅子は前の方にしかない。のろのろ小杉Bと会話しながらきた俺達後ろの方ははじめから座れない。
「これはひどい。」
「争いが熾烈過ぎる。」
後ろの奴らは口々に言葉を漏らす。おばあちゃん!せっかくイメージアップしたん
だ!なんか俺達にも救済措置を!おばあちゃん!
「じゃぁココらへんは、空気イスで頑張れ。」
むちゃくちゃなこと言いやがる。
しかしおたべは全員平等だ。俺達にもおたべが回ってきた。
できたてのおたべをいただく。できたてはなんとなく温かいというイメージがあったが特にそんなことはなく普通の市販のおたべと一緒だった。しかし食感が確実に柔らかかった。つきたて餅を口に入れたようですぐに口の中から無くなった。
小杉Bも「うんめぇ…」と言いながら食べている。さすがにコレは嫌いじゃないか。いつものように隣にいるのでこのおたべもお前食べてと言ってくれるのではないかと期待していた。こういう時に言えよ小杉、
全員がおたべを試食している間おばあちゃんはおたべに関するクイズをしてくれた。
おばあちゃん「さっき説明したの覚えてる?工場で作られてるおたべにはお砂糖何使われているっていった?」
生徒「てんさい」
おばあちゃん「そう素晴らしい。てんさい糖です。」
英語の先生「〈天才〉だお前」
先生が思いがけずウケを狙ってきた。授業中はまったく私情を挟まない先生。
普段の日常からは想像もできない。やっぱり旅行になったら先生にも人間性が出てくるんだなと思った。
こうしておよそ20分間の工場見学は終わった。
おたべ製作に戻ろう。
9:55
帰るとつやつやのおたべの皮が見事に出来上がっていた。
次は生地に粉末をねりこませる作業だ。てっきり俺はいま眼の前にあるきれ~いな生地をパタンと一回折りたたんで三角形を作る。=「なんだ簡単じゃねぇか!」と思っていたが普通に生地に味をつける工程の際に生地と粉末を手でこね合わすのであの美しい正方形の形は見事に面影をなくした。
普通の市販八つ橋の場合粉末は小さじ2,3杯ほどの量で味付けをするらしいが
おれは見事に耳をかさなかった。練りこます粉末の量。この一点にしか俺が作ったというオリジナリティーを表現できないと考えたのだ。
何杯入れるのが良いか。4?いや~4は守りに入ってるだろ~、5行っとく?ちょうど二倍くらい入れたら味に違いが出て良いんじゃないか?あ、でもまて。そういえば俺いつも八つ橋、家で食べるとき少し甘く感じてたんだよな…大衆向けに作ってるからしょうがないとしても…いま眼の前にあるこの八つ橋は世界でもひとつだけ。てことは大衆向けじゃなくても良いんだ。そして俺は甘さ控えめを求めているんだ…。ってことは…?ってことは…?
結果俺は一枚のおたべを作る皮に抹茶の粉末を7杯入れてしまった。
さらに練りこまず外側からパラパラと振りかける粉末分も盛りまくったの合計すると9杯分にもなってしまった。今思えばかなり市販のおたべより色が濃く出ていた気がする。まわりもおんなじようなことをやっていたので比較ができなかった。
そこにあんこをさっきおばあちゃんが言っていたように7グラム入れて三角形にたたんで完成だ。かなり見た目はいい感じだ。問題は味である。
10:36
果たして俺はおばあちゃんの言うことをちゃんと聞けばよかったと後悔するのか
それともあらたなる味の可能性を発見するのか、とりあえず食べてみましょう。
世界に一つだけのおたべ「西田スペシャル」
まずは抹茶から。ぱくり。
ん!うんめぇ!
久しぶりに大きい文字を使ってしまった。
おれが今まで食べてきた八つ橋の中で一番だ。一番オレの味覚に合っている味なのだ。皮がほろ苦く中のあんこが引き立つ。さらにこの抹茶の粉末。始め食べる前まではちょい入れすぎたかな、とか頭をよぎったが全然そんなことはない。
むしろいままでの八つ橋では抹茶の味が砂糖の甘味によってあまり感じられなかった、甘みに隠されている感じがしていたのだ。抹茶本来のもつ苦味が全面に押し出されている。さらにその苦味とあんこの甘味という相反した味が出会うことによって互いを引き立たせている。出来立ての味の凄さは先程の工場見学の際に知っていたが、そこにさらに俺のオリジナルである抹茶の強い味がプラスされている。間違いなく最高の八つ橋が誕生した。これはまさに発明である。
ニッキ味もまたしかり。いつも岐阜のじいちゃんが食べているあのニッキ飴の強烈さに劣らない味を出していた。まさに男の中の男のおたべ、5歳未満は食べられませんとか年齢制限が付きそうだ。いや~美味しい。これは勝ったな。私はあのおばあちゃんに勝ったのだ。八つ橋だけ食べるのでは口の中が甘くなりすぎるということで抹茶をたてた飲み物も用意された。普通のおたべ用に配慮された抹茶だったので俺には必要なかったが一応俺の分もあったので飲んでみた。
にっが。
でもこれを甘みのあるおたべと食べ合うことによって互いが引き立つ、
それではいま手に持っているおたべを口に入れ甘みを取り入れよう。
あ、にっが。こっちも苦い。そうだった。これ西田スペシャルだったわ、
このおたべだけで苦味と甘味の調和は成立してるんだった。そこに抹茶の飲み物など飲んでもただの蛇足にしかならないのだ。あ~~口の中にが。
ともあれ無事におたべ体験を終えた我々、和菓子が好きな俺にとってはかなりいい経験になったんじゃないかと思う。その後バスが来るまでの間おたべ館にあったおみやげコーナーで八つ橋を買った。誰にとは特に決めていなかったが
とりあえず美味しいに決まってるので購入して損はないと思ったのだ。
続く
PS本編はあと2話です