「西田学人生初の京都へ行く」第16話「石舞台古墳はなぜ私の古墳へのイメージを覆したのか」
16話
8:50
明日香村に着いた。
俺は着いてすぐにサイクリングをするのかと思ったけど
まずは集団で自転車にも乗らず古墳を見学することになった。
この古墳見学にはしおりの提示は不要だったのでひとまずは安心した。
石舞台古墳と呼ばれるこの古墳は
名前にも入っている通り全体が岩石で形成されている。
自分が思い描いていた古墳の外観は土や粘土を用いた柔軟なイメージだったので
始めてこの古墳を目の当たりにした時は
ソフトクリームを頼みドリルが出てきたという時に似た感情を抱いた。
そんな男らしいゴリゴリのこの古墳だったが
残念な事にガイドさんが必死に話してくれていた
この古墳にまつわる歴史や由来の説明が
当時私の脳内が「ごりごり」という4文字しか考える事ができなかったため、
脳内処理機能が追いつかず、内容が何一つ理解できなかった。
だから我々を古墳内に案内するときに
ガイドのおじさんがいちいち立ち止まって、
「ココ!ココ!これだよ!これ!」
と辺りと変わらない岩石を必死に指差していたのも当然意味が分からなかった。
それでも石舞台古墳が私の頭に焼き付いたのは間違いなかった。
9:10
いよいよサイクリングだ。
サイクリングの舞台は明日香村。ここを午前一杯かけてサイクリングする。
明日香村は思った以上に広く歩いて回れるレベルだろと思っていた俺は軽く動揺した。山がいくつもあり壮大だった。
徒歩で移動すること5、6分。緑の自転車が何十台も止まっている場所へ着いた。
サイクリング時の班をつくり、メンバーが集まった時点で担任からの確認をもらい晴れてその班はサイクリング開始となる。
だからまずはメンバーを集める事から始まる。
今回のサイクリングメンバーは
俺、小杉B、三上、島田君の4人である。
このメンバーで班長が俺だと
担任の先生には常に先頭へ立ち、班員の意見をまとめる。
サイクリングの行動方針を決めろとまで言われてしまった。
巻き込まれで班長になった俺は
「あぁ、俺に言ってるんだぁ。」
とまるで自分が班長でないかのような話の聞き方をした。
周りは一斉にベルをチリチリ鳴らしている。
ついに出発の時間だ。
白川T「西田ぁ~」
俺「はい。」
白川T「三上っ」
三上「はい。」
白川T「島田ぁ~」
島田くん「はい」
白川T「小杉ぃ~」
三上「あ、小杉いま自転車交換してます。」
白川T「じゃぁそろったら出発。」
バスガイドさんに旅立ちの一枚を撮ってもらい我々は出発した。
ここから波乱過ぎる長い長いサイクリングが始まった。
9:27
始まって10分。
並びは先頭から三上、小杉B、島田くん、俺になった。
三上と小杉Bはほぼ並列して運転している。絶対迷惑だあいつら。
早くも立ち位置がはっきりした感がある。
これはあれだ。新しいクラスで最初はみんな静かなのに
一ヶ月後の5月くらいにはもう本当に元から静かな人しか残らず
内に秘めていたキャラを生徒がどんどん醸し出し、
クラスの上下関係が決まっていくあの感じだ。
なぜこうなったか説明しよう。
最初は良かったんだ。良いスタート切ってた。
俺が先頭になって
「行っくぜぇ~!」
と景気付けに一声張り上げたまでは良かったんだ。
的確に配られたマップも分析して、始めに「万葉文化館」へ行く事になった。
〈ここから近いぜ〉アピールしたおかげか水泳部2人も二つ返事で了承してくれたし、なにより自分の一存で方針が決まったことが嬉しかった。
マップを頼りに進み、視界に現れるレベルの場所まで来た時
緑の自転車の密集している場所が確認できた。
そこがまぎれも無い「万葉文化館」だった。
すばらしくスムーズに到着、しかも思った程混雑してない。
「コレ完全俺の時代来た」と思った。
「万葉文化館」の開演時間は10時からだった。
次の瞬間には冒頭の構図が出来上がっていたんだ。
心境はまさに狐に包まれたよう。
先頭滞在時間めっちゃ短かった。
うん、気づいたら三上が指揮官になってたし。
「あっち行きゃぁ良いっぽいぜ。」
「飛鳥資料館行こうぜ。」
とか、戦陣切っちゃってるし。
始まる前はお前が行動方針を決めろとか言われていたが
コレっぽちも責務してねぇよ俺、
結局俺が先頭になって発した言葉は
「行っくぜぇ~」のひと言。
漫画の噛ませキャラが発しそうな言葉だ。主人公に瞬殺されるような、
あまりの消化不良に一番後ろにも関わらず最終的にはカメラに向かって
「あ、あそこ良くね?」
「あれっぽい、あそこ行こう。めっちゃ人止まってる。行こうぜ。」
「お、着いた。そこ停めようそこ、」
という具合にずっと独り言してた。
でも実際水泳部2人は俺の事をいじっているつもりは無く、
ただ遅いから抜かしただけだと飛鳥資料館に着いてからいわれた。
三上の提案で「飛鳥資料館」へ着いた。
(もういいや三上の提案って言っちゃう、)
ここはバスガイドさんの言っていた通りしおりが必要だった。
前述の通り俺はしおりを持っていなかった。いや厳密には表紙だけはがれたしおりしか持っていなかったので入れるか非常に不安になった。
俺だけ入れないのかなぁ、皆だけ入れて俺だけ外で待たされたらどうしよう。
どうやって暇つぶせば良いんだろう、素数でも数えようかな。
そんな考えがいくつも頭を渦巻いた。
しかしこの飛鳥資料館はすでに何十人もの平岡中学生が通過していたポイントだった為、しおりをチェックするおじいさんは完全に疲労していて目が追いついていなかった。
おじいさんは始めの内は
「俺の目をくぐる事などできない」
と意気込んでいたのかもしれないが、
すいませんおじいさん。俺が着いたときには完全に流れ作業化してました。
そんなこともあって確認するおじいさんは
確実に頭が混乱していたので俺はどさくさにまぎれて切り抜けた。
皆はおじいさんにしおりを見せていたが俺だけ愛想笑いで通った。
流れを会話で表すとこんな感じ
三上「しおりです」
おじいさん「はい、」
小杉B「しおりです」
おじいさん「はい、」
島田くん「しおりです」
おじいさん「はい、」
俺「へへっ」
おじいさん「はい、」
中は資料館というよりかは寺に近かった。
床も資料館にある毛糸で繕ったような床ではなく、木の床だった。
靴を脱ぐ時点でお寺度80%
中に仏像が飾られている頃には
なぜここの施設の名前は飛鳥寺じゃないんだと考えるようになっていた。
(ちなみに飛鳥寺という建物は別の場所にあったので
施設名がだぶってしまうからどんなに寺っぽくても
資料館と名付けざるを得なかったのではないかと俺は推測している)
PS履修登録どうしよ