「西田学人生初の京都へ行く」第12話「夜にそれぞれは何をしていたか」
12話
その後、小杉Bと一緒に自動販売機で飲み物を買おうという流れになり
俺は「ふってふってゼリー」という缶を振る回数によって、食感が違ってくる、
オリジナリティが高い飲み物を買ったが案の定小杉Bに横取りされ、缶の表記は目安20回なのに200回位ふられて、ただのブドウジュースになってしまったり、
色々あったが,いよいよ長い一日目が終わり俺は就寝準備の時間へ入った。
これで長い長い一日が無事に夜へ向かい今日が終わりを迎えるのだ。
しかし。
それは私みたいに違反物も電子器具も持ってきていない
「まじめばかやろう」の場合である。
断言するが今回の旅行で違反物を一つも持ってこなかった人間は全体の3割に満たない。つまり7割が規則に立派に違反しているのだ。
もちろん俺の班も7名のうち5人が違反物所持者だ。
もはや俺を含めたこちら側は一般ではないのだ。3割しかいないのだ。
アウトサイダー的位置づけなのだ。あえて多数派にあわせ文章を書いてしまおう。
これからの夜は全生徒のおよそ7割が活気づく、
つまり終わりではなく長い始まりだ。
しかしあの夜は俺にとっても本当に長い夜になったのだ…
21:10(先生点呼まで後50分)
皆は(もう皆っていっちゃう)活気づき俺は就寝。
それがいつもの俺のパターンだった。
しかし今回は違う。
今回は俺も活気づいちゃうのだ。
小杉Bの携帯を見させてもらえる事になったのだ。
そう、俺はこの三年間学校の旅行行事の度に夜な夜な違反物をしている彼らが
うらやましかった。俺も持ってこようと思えばできた、でもしなかった。
はっきり言って、犯罪を犯す事での罪、
また、それが発覚したときに課せられる懺悔、
それが俺の行為を何度も食い止めたのだ。
そして時は流れ丸三年がたった。
今回の修学旅行もどうせ私は一度は悪い男になる試みをするのだろう。
一度はバックにPSPをつめるのだろう。
しかしすぐに考え改まって取り出しちゃう。
取り出しちゃうんだよ!
そうなんだよ!
毎回毎回しおりの
「なお違反物を一つでも持ってきた生徒はその場で強制的に帰宅させる」
ていう文字を見て怖くて思いとどまっちゃうんだよ!
あの脅し文句に「おぉっ…」ってなっちゃうんだよ!
そんな気持ちと行動が二律背反の時、小杉Bの誘いがあった。
彼とは長い付き合いだと前半で言った。
その言葉は本当で、中学二年のクラス替えから二年間ずっと交流は途絶えていない。
ではなぜ小杉Bは今回中学三年生最後の中学行事「修学旅行」で
俺に初めてこういう系統の話を持ちかけてきたのか。
なぜならアイツは、いや携帯を持っている生徒全員は基本的には一人で十分に楽しめてしまうからだ。携帯には一人で楽しめるアプリが充実しまくってる。
これまで小杉Bは俺がいなくても、一人でゲームや、音楽を聴いて、十分に自分で満足をしていたのだ。だから俺を呼ぶ必要が無かった。
もちろんひとりじゃなく、大人数で携帯を使う場合もある。
生徒同士でチャットもする「LINE」というアプリだ。
でもそれは携帯を持っている人同士が行える事であり、俺は対象外なのだ。
それではなぜ今回初めて小杉Bは俺が携帯も何も持っていかないと知っている上で俺をこの夜へ誘ったのか。
おそらく小杉Bに一人では満足できない事情ができたのだ。
そう、それが今回アイツの立てた企画、映画鑑賞につながる。
「テッド」を俺に見せたいのだ。
たしかに映画鑑賞も携帯で一人で楽しめる機能の一つだ。
小杉Bも一度は「テッド」を一人で見たのだ。
めちゃくちゃ面白かったんだと思う。
そして面白さを共有したくなり、一番身近で映画好きな俺が選ばれた。
多分答えはこうだ、ていうか絶対そうだ、アイツは学校で自分で言っていた。
小杉B「テッド見してぇんだよ。
どんだけおもしれぇか、オメーに、映画好きのお前に。」
ってストレートに堂々と言っていた。
彼らが持っている違反物は単純に携帯だけではくくれない。
ケータイをはじめ、ゲーム機、音楽専用器具、さらには漫画、お菓子と様々なのだ。
それらを使用するにあたり大前提なのがまず教師がいない事。
先生に見つからないバスの移動時間の間にやるなど多少の例外はあるが
最もオーソドックスな皆が狙う時間帯は夜なのだ。
まず手始めに布団の配置争奪戦が行われた。
21:27(先生点呼まで後33分)
ここで重要視されるのがどの場所が一番先生からの死角かという点だ。
その為にこの争奪戦が開催されているのであり、
逆に言うとそれを必要としない人間はここでは優先性が低くなり、
配置決めの際不利になってしまう。だから、違反物を持ってきていないレオは
最後の一つを取る事になった。
よって今回は俺も含める6人が配置決め争奪戦にエントリーする。
布団の配置は上段に三個、下段に四個の七個で構成されていた。
先生がこの部屋に入ってくる際は障子を開ける他手段が無い。
よって今回最も先生の死角となり得るだろう布団の配置は、
障子から一番遠い上段一番左になった。ここは話し合いも無く三上が確保した。
その後は適当に決め布団争奪戦は案外争奪せずに決着がついた。
と思った15分後。
急に三上が配置換えを要求したのだ。歯磨きもすませていた俺は驚いた。
21:42(先生点呼まで後18分)
三上は下段の左端にした方が見つかりにくいと思ったのだろう。
彼の変更を許すと、布団の上に荷物を広げていた俺らは一つ分右へ移動しなければならない。小杉Bに至ってはもうケーブルと携帯とコンセントをつなげ終わり
今夜のベースステージが出来上がっていた。
三上「いや、俺ココでいじりたい(携帯を)」
俺「いや、さっき三上こっちが良いって言ってたじゃん、」
三上「いや、ココが白川Tに見つからない一番のポイントなんだよ(キリッ)」
小杉B「いや、そこでも良いじゃん。」
三上「いや、ここなんだよ。」
もう三上は小杉Bが今夜寝るはずだった布団の上に座ってしまっている。
小杉B「チッ」
三上「フッ、残念だったな。」
俺「いや、残念だったじゃねぇよ!」
結局彼の要望は通ってしまい俺たち二人は異動を命じられた。
21:50(先生点呼まで後10分)
先生の点呼を経て全員が一応の完全消灯をするまで残り10分を切った。
犯罪に加担するまで10分を切った。
俺は今までばれると怖いと思っていた。ばれなくても悪い事に変わりは無かった。
それでも実際はこの三年間ばれた人は1,2人くらいしか話題に出ず、しかもそいつは家に帰宅させられる事も無かった。普通にご飯を食べていた。
そう、結果的に大丈夫なのだ。
そして俺は「脱•マジメMan」を掲げている。もう俺は迷ってはいなかった。
しかしここで小杉Bが少し陽気になってしまった。
この後の映画を一緒に見るワクワク感からか知らないがよりによって俺に攻撃を仕掛けてきた、ソファーというクッション要素がある上でのプロレスごっこ。
そして最悪な事に俺はよりによってこのタイミングであの問題について触れてしまったのだ。
俺「なぁ、それよりさ、ホントに今日全部見るの?106分?長くね?」
小杉B「はぁ?」
まずい。スイッチが入った。
小杉B「お前なんなの?せっかく今から見ようぜって雰囲気なのに、見たくない感出しまくりでさぁ!おぉい!」
もうヤクザみたいな口調だ。
俺「いや、違う違う!見たくないんじゃなくて見れないんだって!
俺最低でも家では11時には寝る訳よ、でも10時から映画見出して116分って
終わんの12時過ぎちゃうでしょ?俺眠くなっちゃって映画どころじゃ…」
いきなり小杉Bが布団を俺の顔に投げつけてきた。
めっちゃ痛い。
小杉B「は?ふざけんな、見んだよ、今日!」
布団を息つく暇無く投げ続ける、
バン。いたい。
バン、いたい。
バン、痛い。
バン、痛い。
バン、痛い!
さすがにキレて本気で反抗する。
小杉Bが奪おうとした枕を俺が掴んで離さない。
あの小杉Bの腕力に初めて真っ向から勝負した。
小杉Bはもちろん静まる事無く俺の胸から枕を奪おうとする。
2人の布団を取り合う力はどんどん強くなっていく。
俺「止めろぉ〜!!!小杉ィー!!」
小杉B「オゥラァアああ〜!!!」
その瞬間、
ブチッ
布団の枕カバーが完全に破けた。
21:55(先生点呼まで後5分)
ps
次回 1日目クライマックスです