「西田学人生初の京都へ行く」第37話「水泳部はどうしてこんなにもいい人たちばっかなのか」
37話
19:15
部屋に戻る一行。部屋の中央に置かれていた机は見事に端に移動しており
四つ白い布団が敷いてあった。例によって場所取りが行われる。
布団の場所は縦に三つ、横に一つ置かれていた。
場所取りの結果縦の三つには左から三上、小杉B、小野田くんが寝ることになり
横の一つで俺が寝ることになった。
この三日目は言うなれば修学旅行最後の夜。
つまり明日までに準備することが非常に多い。
荷物札を記入したり、着替えを袋に詰め圧縮したり、お土産をこの旅館で買えるのも今日の9時まで。旅館から出発する明日の8時15分まではノンストップで予定が詰まっている。つまり実質ここで土産を買うのも今日。しかし土産は強制でもないし、着替えはそもそも一日分しか持ってきていない人も中にはいるかもしれない。
つまり今上に挙げたやらなければいけない項目は250名の中三平岡生全員に共通することではなく、それぞれなのだ。だからしおりにはお土産を何時何分に買うとかいちいち行動表に書けない。だからしおりもこれまでの二日間と違い行動予定表がスカスカだ。しかし俺の場合今挙げた上の項目すべてが該当していた。
しおりのスカスカさに反し実は今夜が一番忙しい夜なのだ。
しかし言ったそばから俺は布団の場所決めのあと小杉Bによって他の水泳部仲間の部屋を訪問することになってしまった。まぁこれは自分も行きたかったしあまり抵抗はしなかった。まず小杉Bが向かったのは中学水泳部所属にして時期部長
前川のところだ。前川も能勢レベルに凄い男だ。
スポーツがなんでもできてしまい野球のうまさには同じ時間を生きてきた人間とは思えない。年をごまかしているとしか思えない。
さらにうまいだけじゃなくてスポーツに興味を持っている。俺は自分が水泳部なのに世界大会に出た水泳選手を「何も言えねぇ」の北島康介選手しか知らない。まさに「なんも分かんねぇ」状態である。
水泳でさえこの程度の俺はもちろん野球やサッカーやボクシングなどの試合を一回もテレビでフルで見たことはないし知識もない。
阪神と巨人も変化しない単語だけで年々変わる戦力やメンバーなんてものは知らない。そんな無知の俺とは対照に前川は水泳の世界大会は毎回見るし選手も何人も知っておりさらに自分が尊敬している点をそれぞれに持っている。
プロ野球スピリッツというゲームソフトを持つほど野球は好きであの
野球マニアの小杉Bとも互角に話し合える。スポーツにおいては全てに精通していると言っても過言ではない。そんな前川だから友達も多い、クラスの主要人物は大抵がスポーツ好きなのだ。見事にスポーツという盛り上がる話題で友人関係を作っていく。それも全然押していくそぶりなく嫌みのない作り方。
しかし俺が凄いと思うのは能勢にも当てはまるがそういった凄い点を持ちながら目立ちたがらない、いじられ役に回るという点である。
なんだろう。俺と同じいじられる側だからだろうか。一概に比べられるものではないが忍耐の面ではおそらく小杉Bよりも凄いと思ってしまうのだ。
豆知識だが能勢は主に小杉Bがいじり、
前川は主に三上がいじるという構図だ、ただし例外はしょっちゅうある。
そんな前川を俺たち二人は尋ねた。その後前川と小杉Bと俺で地下一階のお土産売り場を見に行くことになった。
19:47
結局地下一階の土産売り場には買いたいものはなかった。
だがまだロビーである一階にもお土産場がある。そこも見ていかないと。
しかし小杉Bはそのまま前川を地下一階から自分の部屋へ連れて行こうとする。
しかもなぜか前川の首を絞めながら。
前川「痛てぇ痛てぇ痛てぇ痛てぇ痛てぇ痛てぇ」
小杉B「俺の部屋に来て、」
前川「いや、まずロビーいかねーと…」
小杉B「え?」
早乙女「なんかもらうって言ってたじゃん、」
田中B「あ?」
前川「なんかもらうって言ってたじゃねーかよ、」
小杉B「なんかもらうの?」
前川「ロビー寄っていくぜ、みんな、」
小杉Bは方向転換して階段を下り始める。引き続き前川を両腕で絞めながら。
俺「いや、ロビー一階でしょ?」
前川「あ、そっか。こっちから行けるのか。」
田中Bは再び方向転換。
その後小杉Bの拘束は外れたがロビーに行くまで前川は他の人からズボンを後ろから降ろされたり大変な目にあっていた。
結局何をもらったかはよくわからないが俺はこの時にロビーにあるお土産場を覗いておいた。この旅館のお土産はまだ買っておらず今日が最後なのでとりあえず
お菓子を買っておいた。餅系の甘菓子である。パッケージにここの旅館が写っているレベルのオリジナリティーだが買っておいた。
部屋に戻る。小杉Bは腹が痛いとトイレに鍵をかけて閉じこもってしまった。
俺は先程言っていた項目を果たすことにした。
まず着替えを圧縮することにした。
最初にもう着ない服を袋に入れ空気を抜く圧縮作業を行う。
持ってきたパジャマのズボンは今夜使うはずだったが、明日の朝着替えるため一度封を開けてパジャマを入れ再び圧縮するのが面倒くさかったので今日は四日目のズボンを履き寝ることにした。空気を抜くために様々な行動をとった。
足で踏みつけたり、かかと落とししたり、ごんごんちゅうをやったりとかした。
19:53
かなりシワが出てピチピチになり始めた頃に前川がうちの部屋を訪ねてきた。
前川「あれ?小杉は?」
俺「トイレ、なんか腹痛いんだって、」
前川「俺はなぁ、西田、小杉に復讐してやるよ、」
首を抑えながら前川は言う。相当痛かったらしい。
俺「まじか、今トイレいるよ。」
前川「言ってやるんだ…殺されるけど、俺は逃げ切ってみせる…」
何か小杉の嫌がる言葉を発してストレスを解消するつもりらしい。
前川は鍵がかかったトイレに近づきゆっくりと息を吸った。
そして
「おぉ~い!おばキヨーーーー!!!!!!!!」
説明しよう、「おばキヨ」とは。キヨとは彼の名前の頭文字、すなわち小杉Bのことを指す。そしておばとはおばあちゃんの略、つまりおばキヨとは小杉Bがおばあちゃん大好きな熟女好きであることを示す単語である。
いやこんな悪口一つで釣り合わないだろう前川、せめてコインでドアを開けて便座に座った小杉Bの羞恥心溢れる顔を拝むぐらいしないと…
と思ったが小杉は。
「ウォオィッ!!!」
ブチ切れだ。お釣りがくるぐらい効果抜群だったようだ。
前川はすぐに逃げ出す。
前川「うわぁあ!怖い!怖い!怖い!」
ドアから一目散に逃げていった。
一連の事件を見ていた三上は大爆笑。俺も面白かった。
肝心の小杉は静まり返っている。トイレにいるので姿が見えず頼りになるのは音だけ。しかし何も発しない。相当にお腹の調子が悪いのだろう。さっきの怒鳴り声で
かなり声帯にダメージを負っているようだ。
三上「閉まってるwww…」
俺「これが空いた時…野獣が解き放たれるのだ…」
小杉B「めっちゃ腹痛いんだよ…」
俺「なんか言ってます www」
三上「前川www終わったなwww」
俺「なんか前川が言ってたけどどうすんの?」
小杉B「俺出るまで拘束しておいて、」
三上「いやもう逃げた、」
俺「俺ら捕まえる術なかった、ヒマ、」
小杉B「……いいや。」
俺「あ、もういいんだ。」
なんとあれだけ喧嘩を売った前川に小杉まさかの許す宣言!
あの小杉が何の仕返しもしないなんて、これは緊急事態だぞ。
相当に小杉は腹の調子が悪いのだろう。声も弱々しい。
俺「彼は今弱っている…」
いつもの小杉でないことだけは確かだった。しかし。
20:00
小杉B「取っ捕まえる。」
俺「誰を?」
小杉B「前川を」
やはり許していないようだ。やはりいつもの小杉のようだ。
小杉B「半殺しにしてくる。」殺意の目だ。
前川と小杉B。始まりは同じ水泳部、
前川のもつプロ野球スピリッツでは楽しそうに対戦プレイをし、
野球の話ではいつも盛り上がりそして笑い合っていた。
正義と悪はまだひとつのままだった。
いつ間にか違(たが)ってしまった二人。一人は相手を憎み、一人は相手を恐れ逃げ続ける。これは彼の決別の物語。小杉Bが部活仲間さえ手にかけてしまうという
悲しき物語。本当の悪。小杉Bが小杉VB(Very Bad)になる物語。
俺にはどうすることもできず、ただ記録する他なかった。俺はカメラを回し始めた。
そして祈るしかなかった。かれがもうこれ以上過ちを犯さないことを。
PS新キャラ前川くん登場です。
そして小杉Bがやばいです。この時はガチギレしてましたからね。
ここからはそんな登場して一話の彼を執拗に追い詰める小杉VB編が始まります。