「西田学人生初の京都へ行く」第36話「小杉Bへの返答について何を選べばよいのか」
36話
俺は引き続き小杉Bに冷水シャワーを当て続け小杉Bは苦戦していた。
必死に自分の持っている洗面器でこっちに水をかけようと努力するが
シャワーによって視界が塞がれているのでもうそれどころではなかった。
しかし目の前で相手にしているのは戦術のプロ小杉B、
家では常に親と口喧嘩、アホ、馬鹿などの口論が絶えず
母はママ友に小杉Bの話題を出す時にBのことをなんの躊躇もなく「うちのバカ」という名前で話題を展開していくらしい。
俺より何倍もワイルドな家庭環境に育った男だ。
どんなことをしだすかわからない。次の瞬間小杉Bは動いた。
何をするのかと思えば俺側にある洗面器を奪い自分の持つ洗面器とふたつにしたのだ。そしてその一つは俺に水を浴びせる攻撃用に、もう一つは自分の体を冷水シャワーから守るための防御用にしたのだ。洗面器とシャワーが激しくぶつかる音がする。ビタタタタタタタタ!うぉー!すごい音だ!どんどん小杉Bが洗面器をシャワーに近づけていく。ジリジリと迫っていく小杉B。
あいつシャワーの元栓を止めるつもりだ!くそ、そうはさせるか。
俺はシャワーの水圧を最大にした。
超水を無駄にしているが果たしてどちらが勝つのか。
俺「うおぉおおおおおぁああああああああああああ!」
小杉B「おぅうううぅらぁああああああああああああああ!」
バシュッ!小杉Bが持っていた洗面器が水圧に押されて吹っ飛んだ。
小杉Bの片手が水圧に絶え切れず洗面器の角度を少し変えてしまったのだ。
そのおかげで一気に洗面器は押されその結果洗面器は飛んで行った。
勝ってしまったが俺は小杉Bが怒り出すんじゃないかと心配していた。だが小杉は
小杉B「もうやめよう。」と素直に戦争終結宣言をした。
俺「わかった。」
再び頭を洗おうとする俺、視線を前の鏡に合わせた途端。
バシャーーーン!思いっきり水をかけられた。
なんてやつだ。しかしこの戦争のおかげで小杉B俺共々に体温が急激に低下していたため、小杉Bが髪を洗った後そのまま外に出る宣言を撤回してくれたのが唯一の救いだった。我々はもう一回お風呂につかりじっくりと体温を温めた。
結局風呂はこの三回で最長の30分入っていた。
俺は目標よりは少ない30分という時間に結果的には満足した。
風呂の回転率もあり着替え置き場に自分の服をずっと置き続けていることに罪悪感を感じたのだ。
18:30
結局風呂には30分しか入れなかった俺。
こんな時間までどうやって暇を潰したのか。
気にはなるが例によって資料が不足しているのでここに至るまでもカットさせてもらう。というわけで修学旅行最後の夕食である。
位置情報は左隣に小杉B、向かい側左に小野田くん、向かい側右が島田くんといったところだ。そして最後を飾る夕食メニューは最大にして最強。すき焼きだったのだ。
大きな鍋が中央に置かれておりその両端には野菜、肉とそれぞれ部門別に皿が置かれていた。
野菜は様々な種類が勢揃いで置いてあり、
肉はオール豚肉でこれでもかというくらい皿に盛り付けられていた。
野菜の皿にはこんにゃく、おふ、しいたけ、白菜、豆腐、緑色野菜などがラインナップしていた。いただきますの前に先生による恒例のお話タイムがあった。
内容は明日に向けてのスケジュール予定確認。銭湯での忘れ物についての注意、
などだった。こうしていよいよいただきますの時間になった。
「いただきます!」
俺はまず野菜から攻めていった。白菜などを鍋に入れて食べた。
美味しかったがかなり味付けが濃かった。この汁を飲んだりでもしたらそれこそ
腹を壊してしまうんじゃないか。そう思えるほどの濃さだった。
そう思いながらも食べ進んでいると小杉Bがこんなことを言い出した。
小杉B「俺おふ好きなの、だからこの皿にあるおふ全部食ってやるよ。」
最近の彼が話す内容には返答に困るものが多すぎる。どう返答すればいい。
結びが「やるよ」だからな~、明らかに俺の反応を待ってる。
せっかく珍しくカメラも取られず変な介入もなく純粋にすき焼きを楽しめているんだ。
この状況を維持し続けるには次の俺の返答で彼の機嫌をいかに損なわせないかどうかにかかっている。
まったく、小杉Bという男は、お前は意識していないだろうがお前のアクション一つ一つに毎回俺は究極の選択を迫られているんだぞ!
くそ、憤っていても仕方がない、
考えろ。これは一種のギャルゲーだ、ラブプラスとかである選択ゲーだ。
相手が不快にならないような正しい返答を選択肢から選び発言すればいいんだ。
ただしゲームと違いやり直しができない。一回勝負だ。
セーブポイントもなくただ進むしかない。
俺は頭に思い浮かんだ返答一つ一つに冷静に分析していく。
返答候補案その1「どーでもいいや」
これが今思っている一番素直な気持ちだ。これなら嘘も演技っぽい感じも出せず言える自信がある。
だがそんな馬鹿正直な言葉を奴に投げかければ普通に機嫌を悪くしておしまいだ。俺の言いやすさはここでは重視しない。
嘘でもいい。
演技も全然ありだ。
いかに弁論術を展開できるかでこの局面は決まる。こんなものは論外だ。
返答候補案その2「う…嘘だろ…おいお前正気か!おふを全部食べるなんて無茶いうな!
27時間テレビをラジオ体操だけで乗りきるようなもんだぞ!」
なるほど、これなら少なくとも無関心とは思われないだろう。
「…頼む、俺からお前に頼む、やめてくれ!お前を失いたくないんだ!小杉!」
おぉ、熱い、文字に起こしただけでも熱意が伝わる台詞だ。最後に何気なく小杉を持ち上げている点も抜かりがないな。
でもこれって普通の会話でする口調じゃなくね?演技だってばれるわ。
返答候補案その3「ワンオクのボーカルって元ジャニーズだったんでしょ?」
逆に話題を変える作戦か。しかも振る話題は小杉Bが興味を引くような話題に設定しておく。
すると小杉Bは一瞬なぜ俺のことを無視したという発想に至るかもしれないがすぐに振った話題の興味に負けて機嫌は悪くならないはずだ。
理論上は。いや、待て。
なんかこの旅行中あいつとのどっかの会話でこの手口が使われてた気が…
俺「もぅ、電池無くなっちゃうよ…」
小杉B「え?でも昨日充電したんでしょ?」
俺「いや、そういう問題じゃない…」
俺「え、だって昨日充電したって無くなっちゃうじゃん…」
小杉B「じゃぁなくなるまで撮ろう。」
俺「いや、撮りたいときに撮れないの一番駄目だから、」
小杉B「何か耳が痛い。」
あいつが使ったんだ!てことはあいつ知ってる!
この手口あいつ知ってる!つまり返答に答えられないから仕方なく話題を変えて逃げようという真意がわかっちゃう!あっぶね~、
一回冷静に考えてよかった。この手口は使えない。
返答候補案その4「ぱいぱい。」
なるほど。一転してバカキャラで攻める感じか、
これなら小杉Bにこいつと関わると危ないという危機感を抱かせることが可能だ。
そうすれば小杉Bは少なくともそれ以上俺を追求することはしないだろう。
だがこれを使うことによってこの局面は乗り切れるが俺が社会的に抹殺されることは必至だ。どうやら台詞は自然な感じがいい。つまり
「俺おふ好きなの、だからこの皿にあるおふ全部食ってやるよ。」
この台詞に対して自然な流れの返答をしなければならないということだ。
だんだんこのゲームは無理ゲーなんじゃないかと思い始めてきた。
もうだめだ。結局俺はアドリブができない。こんな突然の問いかけに適当な回答なんてできるわけないんだ。考えても考えてもだめだ。もういい、ここは禁じ手を使うしかない。
小杉Bを前にして沈黙なんてそれこそ本末転倒だ。
俺「まじかwwwwやばくねwwwwww」
そう、これが禁じ手、どんな問いかけにも対応できるオールマイティー返答。
要するにチート、なにがまじでなにがやばいのかまったくわからないが
とっさに言う分には至って自然だ。ただこれはやりすぎると話を聞いていないと相手に悟られてしまう。しかもこの禁じ手に至っては他の技より遥かに使える回数が少ない。この修学旅行中では一回が限度だろうと思っていた俺は今に至るまでできるだけこの禁じ手を使わずにほぼ不可能な問いかけにも立ち向かってきた。
しかし俺は負けてしまった、リスクを背負い戦うのをやめ一回きりの安全策を使ってしまった。早くも発言し終わるやいなや後悔し始めた俺をよそに小杉Bは機嫌よく
小杉B「大丈夫、やってやるよwwwww」と言った。効果は絶大だった。
もうここからは、俺に会話での安全は保障されない。
19:01
すき焼きを食べ続けて約30分。
俺は先ほどの後悔も忘れて肉を食べることに勤しんでいた。
すると隣の小杉Bが言った。
小杉「おい、これさっきからずっと鍋の中に浸ってるおふあんだけど!」
お前まだやってたのか。
俺「食べるんでしょ。それも。」
小杉B「やってやるよぁああああ!」
そういって小杉Bは鍋からおふを次々に取り出して自分の小皿に入れていった。
おふというものは汁を吸う、実際鍋から取り上げる度におふからぽたぽたと汁が落ちていた。あの様子だと相当汁を吸っている。
あんな濃い汁を吸ったおふをそんな全部食べて大丈夫なのか小杉、
小杉B「うぅわっ!しょっぺ!wwww」
まぁ楽しいならいいけど。
こうして修学旅行最後の夕食は終わった。
そして小杉Bはこの直後からお腹の不調を訴えるようになる。
「ごちそうさまでした!」
続く