「西田学人生初の京都へ行く」第31話「一行が初めて京都で口にしたものとは」
31話
トンッ
小野田くん「この駅が最寄りだと思う。」
おのだのキタァアアアア!!!
同じくゲームも持ってきておらず俺と一緒に掲示板を見てくれていた小野田くんが発言したのだ。
きましたまさかの!まさかの小野田くんがこの絶望の状況に光をさしてくれる展開キターー!あまり率先的でない静かなキャラが後半先陣を切りみんなを引っ張るという展開!
このドラマティック展開!この展開をさせたいがために一度僕らを絶望の状態に陥れたんだね?神よ!素晴らしいです本当に!これは素晴らしい!
で?小野田くん掲示板の駅指してるけどそれが最寄り駅なんしょ!?
どこどこどこ?どこいきゃーいいの?どこなのっ?どうなのっ?
「七条」
ここで本作品4068文字前の部分を振り返りましょう。
電車内はそれなりに日曜だったので混んでいた。座れず全員立ちながらつり革につかまった。小杉Bと中三上スマフォでゲームの対戦。小野田くんは文庫本、
俺は外の景色を眺めていた。
汽車さん「七条~七条~です。」
俺「俺たちが行くのは三条だからまだ降りないよ。」
あと六、五、四条らを越えないといけないのでまだまだ先は長い。
あるぇええええええ~~~~~~~~!?
汽車さん「七条~七条~です。」
俺「俺たちが行くのは三条だからまだ降りないよ。」
俺「俺たちが行くのは三条だからまだ降りないよ。」
俺「俺たちが行くのは三条だからまだ降りないよ。」
俺「まだ降りないよ。」
降りんといけんかったんやないかーい。
俺やん。結局こんな事態に陥ったの俺のせいやん。
や、ちょっと待って。ちょっと冷静に考えろ。さっきの小野田くんがリーダーキャラにシフトっていう超絶神展開の後だったからなんの疑いもなく受け入れちゃったけど違うかもしれないぞ?
もしかして間違えオノーダ?
超絶神展開からの間違えオノーダしちゃった?小野田くん?
これ間違ってたら結構はずいよオノーダ?
これは聞くしかない。
俺「え?小野田くんどうしてわかったの?」
小野田くん「ガイドブック76~77にある地図見て一番店から近い駅が七条だった。」
え!?
ガイドブックにあるおよそ15個の京都奈良巡りコース。
その一つ一つには箇条書きされた巡るコースを視覚的に捉えるため地図に載せたページが先頭にある。もちろんお好み焼き屋おのだも例外なく地図に載っていたのだ。
そして小野田くんはそれを見た。で、その周辺にある駅を最寄り駅と考えたのか。
たしかに66ページにはちゃんとおのだがありそのすぐ近くに七条という駅が書かれていた。
なんてことだ…俺は…ネットの京都道案内サイトを過大評価しすぎた。
三時間調べたお好み焼き屋おのだまでの道のりが印刷されたA4用紙に絶大な信頼を置きすぎた。置きすぎたことによってそれ以外のことに目が向かなかったのだ。
まさか。ガイドブックに書いてあったなんて。
確かに考えてみればそうだ。よく50年間歴史を研究し続けてきた老人の歴史学者が生徒のネットでの情報収集に難色を示すように。
ネットの情報よりもちゃんと書籍化され正式に発行されたガイドブックに書かれている情報の方が何十倍も信ぴょう性があるのだ。
あってるよ小野田。ご明察だ。「オノーダご明察」いただきましたよ皆さん。
気づかなかったよ俺。てかみてなかったそんなの。全部パソコンのサイトで済ませようとしてたから。
でもさ、3時間かけて一人で作った資料だよ?
11月10日平岡中学校中学三年修学旅行小杉B三上小野田くん俺班のコース巡りのためだけに構成され作られた世界で一つだけのパーフェクト資料!
情も湧いちゃうよ。情報が間違ってるなんてそんな。酷なこと思えるわけ無い。
こうして小野田君の完全リーダーキャラシフト展開が炸裂し俺たちは七条へ向かうことになった。俺は雨に打たれたA4用紙数枚を何も考えずバックに押し込んだ。
11:30
七条へ着いた。ここからだ問題は。お願い小野田君。俺が起こした悲劇を繰り返さ無いでくれ。時間をかけるんじゃ無いぞ、奴らが機嫌を悪くする。かけて10分だ。
頼んだぞ。
心では勝手に先輩面をしながらちゃんと小野田君に後ろからついていく。
俺はいっつもそう。ホントに思うだけ。
小野田君は76ページを見ながら歩いてく。資料を確認しながら歩いていく。
さっきの俺と同じだ。
唯一の違う点は小野田君のほうは止まらないといったところか。
角を曲がり、少しまっすぐ、また曲がり、だんだん狭い路地へ入っていった。
ちらりと後方を見た。小杉Bと三上はタラタラ歩いている。
どうせ着かないんだろ感が丸見え、隠す気もないのだろう。
相手が小野田だからってみんななめてかかっている。
ふと気づくと小野田君が止まっていた。まずい。迷っちゃったか?
よし、ここは一度修羅場を経験している俺の出番だ。アドバイスしてやろう。
え~とまずはだな。気持ちをしっかり持つことだ。
大抵勘のいい人間はこういう状態に陥ると先のことが走馬灯のように見える。
小杉Bと三上がキレている場面、打ちひしがれている自分の場面、
俺にも見えたよ、小野田。でもだからって気を落とすんじゃない。
たとえこれから辛いことが必ず起こるとしても、それをどう楽しく乗り切るかだ。
俺だって京都市役所前では楽しいことを考えた。
俺が「お好み焼き屋無い!」ってテンション高く言えたのもその後の運命を受け入れたからだ。小野田。恐れるんじゃないぞ。俺がついてる。全力で…フォロ…
小野田くん「看板があった。」
おいマジか小野田。
小杉B「あったじゃん。」
三上「やったぜぇ~…」
虫が好いていないんじゃないかと思ったが思いのほか二人とも喜んでいる。そりゃそうか。あったらあったで昼飯にありつけるからいいのか。なかったらまた怒鳴り散らしていたんだろうな。しかしそう簡単に昼食にはありつけなかった。
店内にはすでにたくさんの平岡生がいたのだ。
遅かった。ガイドマップは全生徒250名全員に配られていた。
俺たち以外にもおのだを昼食に選択する班はいるとは思っていたがまさかここまでとは。室内は10席ほど、カウンターが5席ほど、鉄板が机に埋め込まれたテーブル席が二、三ほどおいてあった。そのテーブル席二つを平岡生が確保していた。
完全に出遅れた。俺らのはずだったのに。一番早くおのだを目指してたのは確実に俺らだったのに。10時20分からおのだを目指していた俺らだったのに、
俺が…一回京都市役所前なんかに寄ったから、
こうして俺はまた自身が犯したことを深く後悔しはじめるのであった。
やっと持ち直したところなのに。また気分が沈んでしまった。
こうして俺たちは店内を仕切っているのであろうおばちゃんに呼ばれるまでの
約30分間、小雨の外で立って待ち続けたのだ。水泳部二人はもちろんスマフォ、
小野田くんは文庫本を読み、俺の気分はブルー一直線だった。
1日目の夜の心境だ。なんだか冗談で笑い飛ばせないようなことをしてしまった時、
俺はいつも気持ちの切り替えが遅い、ズルズルと引きずるのだ、
初日の夜はまだ1回だから良かった、さすがに二回はきつい。
いい加減仕切りなおしたいのに、何回同じことをやっているんだ俺は
自分自身が楽しくないとこの修学旅行楽しくならないわけがない。
切り替えろ!俺!いい加減気分を変えろ!おのだにはもう着いてるんだ!
あとは食うだけだ!でもまてよ、なんで俺ら待たされてるんだっけ。
そうだ、俺が京都市役所前なんかに止まって時間ロスしたからか。
はぁあぁああぁあ~~~……………⤵︎
そうして楽しい気分を取り戻せないでいた俺を尻目に店内のおばあちゃんは
ついに俺たちを店に引き入れた。
12:33
改めて店の紹介をしよう「お好み焼きやおのだ」
看板を目印に細い路地を入ると現れるこの店。
肉玉、豚玉、イカ玉などのお好み焼きのほかそば入り、うどん入りなど一度食べたら病みつきになりそうな味が楽しめます。店内は「おばあちゃんの笑顔がいいね」と話す常連客で溢れ、湯気を上げるソースの香りが鼻をくすぐります。
ガイドブック引用より。
店内はお好み焼きソースのいい匂い、壁はいい具合に煙で黄ばんでいた。
また壁にはプラスチックで作られたペラぺラのメニューが何枚も画鋲で止めてありあるところの文字には「すじ煮 500円」
またあるところには「おでん有ります」
「酎ハイ 450円」など様々で正直ダブってないか心配だった。
机はカウンター席は石、テーブル席は木でできておりカウンター内は以外と最先端で最新の電子レンジなどがあり鉄がゴツゴツしてた。
白い長タウルを首にかけたおばちゃんはハッと目を離したスキにカウンターの内側でお好み焼きを鉄板からひっくり返している。いそがしいおばちゃんである。
俺たちはすぐさま注文を行った。注文はそれぞれが口にしたが何を頼んだかは忘れた。ただ覚えているのは全員が頼んだお好み焼きに「そば入り」と頼んだので
俺だけは新鮮さを狙って「うどん入り」を注文したのだ。
テーブル一つに一個置いてあるたれ入れから自分で好きなだけたれをつけていいとのこと。本当に好きなだけつけてもいいんだろうか。
つけすぎて容器がなくなりなくなったからお代わりちょうだいなんてでも言ったらその場でおばあちゃんに顔を両手で掴まれそのまま鉄板にじゅ~って
やられるんじゃないかと思ったが実際のところどんなに頑張ってつけても容器はなくならなかったので安心した。
そしてついに目の前にうどん入りお好み焼きが置かれた。
色はもちろん小麦色、白いうどんと生地にたれたっぷりがつけられ
じっくり鉄板で焼かれたそれは見事な小麦色を放っていた、
一口食べてみる。
う・ま・い
これでしか表現できなかった。本気でうまい。
口だけではなく足や手もその味を喜んでいるようだった。肉はジューシーでうどんももちもちで最高に美味しかった。
一人期を狙って頼んだうどん入りお好み焼き、これは頼んで正解だったな。
試しに俺はそれを小杉Bからそば入りお好み焼きとで一口ずつギブアンドテイクしてみた。今度からはそば入りを頼もうと考えている。
午前中の雨に降られながらのあやふやな歩きに班全員は疲れきっていた。
そもそも食べるより先に椅子に腰を下ろすことができてここに来て良かったと思ってしまった。そこにお好み焼きが出されたらもうカオスだ。
ざくざく箸で切っては食べ切っては食べの反復。うまいうまいと食べ進んだら
ものの10数分で食べ終えてしまった。午前10時20分から追い続けること2時間
40分。俺たちはついに昼食をおのだで食べ終え店を後にした。
続く
PSほんとドラマティックでしたよね