「西田学人生初の京都へ行く」第22話「マラ石の真実とはなんだったのか」
22話
11:35
俺たちは山から町へ帰還した。
坂を下る速さは快感ものだったがものの1,2分で下りきってしまい虚無感が募った。
この無駄にした30分間は思った以上に我々の精神に影響を与えてしまった。
全員冒険をしようとしない。フィーリングで一切動かない堅物に成り変わってしまったのだ。地図に頼らずノープランで突き進むスタイルは論外となり
自転車からは降りて、片手でハンドルを握り引きながらもう片方の手で同時に地図を確認し進むという地味、かつスローリーな行動スタイルになった。
正午まであと25分。南中高度が最高点に達し1時間後に地面、2時間後には
空気が温められ1日の最高点に到達する。
三上は着ていた上着を脱ぎ緑色のシャツ一枚になった。
本当に11月なのかと思う。暑かった。
押しながら進む自転車はひどく遅く感じた。自転車を引きずっているので徒歩より遅い。そしてこの暑さ。死んでしまう。今すぐに死んでしまう。
俺たちは山道にいた。車道はあるものの、また山の中をさまよっていたのだ。
それに加えてお決まりの坂。途中すれ違う車に乗る運転手の軽々しさに
何度も心を折られた。班員たちは終始無言。完全に何かが終わった雰囲気が。
俺は必死に何か喋ろうとしていた。けれどもかける言葉が見つからない。
ここまでなのか。サイクリングはこんなSadな結末で終わってしまうのか。
その時。
「あれ、三上、」
声の主は3年F組の班、班員の一人、水泳部に所属している能勢だった。
能勢は水泳部だ。能勢は頭が良く毎回考査では上位成績優秀者に名前が載る。
科目別でも載る。副教科も載る。とにかく彼は頭が良すぎる。
しかもそれを能勢は一切自分からは発信せずあくまで控えめなのだ。
常に周りに合わせてコミュニケーションをとる。
あんだけ表に載るんだったらもう少し偉ぶってもいいのに。
俺ならする。絶対偉ぶる。スネ夫化する。
俺は今まで生きてきた15年間の人生のなかで頭がいいやつは性格が悪い
という持論をもっている。しかし能勢は当てはまらなかった。彼はアノマリーであり俺の持論と対極の存在だ。俺は自分が考えたにもかかわらずこの持論が嫌いだった。
そのくせ大抵はこの持論が当たってしまうのだ。それを見事にぶち壊してくれた能勢。
小学四年生から行きたい大学を決めるような男だ。
そんな能勢だから交友関係も深く多彩だ。頭いい同士でもつながり、悪仲からのいじられ役としてつながり、先生とも自主的に話し合い繋がっている。
そんな彼の控えめに漬け込んでみんなはいじるのだろう。俺だったら耐えられない。
自習時間に勉強をさせまいと筆記用具のシャーペンを部品単位で分解されるなんて。やったそいつは周りからウケられていた。でもそれをした人より
それを受け入れて対応していく能勢の方が何倍も大変ですごいと思う。
俺は頑固だし不足があったらすぐに交友関係ごと絶ち切る。そんな俺だからもちろん能勢よりも友達は少ない。そしてもちろん能勢はそんな俺とも友達として接するのだ。
能勢について説明しすぎた。話に戻ります。
能勢はどうやら今からマラ石の場所へ行くようだった。
我々は天にもすがる思い出お供させてもらった。
三上、小杉Bらは能勢をいじる役なのであくまで疲れたそぶりを見せずに
「連れてけよ」とずっと命令口調だった。
能勢に導かれて俺らは自転車にまたがった。能勢は後方からきたので進行方向は我々と同じだった。この偶然を利用し三上、小杉Bらは命令口調に加えて
「俺らも行くところだったよ」感をだしていた。
能勢らの班に案内されて俺たちは念願のマラ石へ向かった。
もちろん能勢らも行ったことはないのだが俺らからしてみれば500回くらい
行ったような雰囲気が漂っていた。
小杉B「すごくね?」
俺「何が?」
小杉B「案内してくれるってよマラ石のところまで、」
俺「すげぇよな、それ確かに。」
俺「でもさ、絶対いかないといけない場所じゃないんだよね、マラ石。」
そうなのだ。マラ石は明日香村にあるまぎれもないスポットだが
ある諸事情でマップ上でのその存在は抹消に近い扱いになっている。
俺らに普段英語を教えている先生がそもそも修学旅行前にこの明日香村の話題でマラ石について教えてくれたのだがその先生は言ってた。
「行ってもいいけどあまりに◯◯だぞ」と。ペダルを漕ぐスピードを速める。
マラ石まではもうすぐだ。
11:50
そしてついにたどり着いた。マラ石の場所へ。
俺はカメラのシャッターを押しまくった。
もしかしたら橘寺の時より押したかもしれない。
説明プレートも一枚だけだったので念入りに見た。
その説明プレートにはこう書いてあった。
「明日香村にある石造物の一つ。男性器を意識したもので本来は真っすぐに立っていたとも言われている。地元では、飛鳥川をはさんだ対岸の丘を「フグリ山」と呼び「マラ石」と一対のものと考える説もある。この…」
そう、もうお気付きの通り
この石造物のモチーフはちんちんだ。
持ち前の文面の堅苦しさで必死にカバーしているようだが
まぎれもないちんちんの説明になっている。しかも
本来は真っすぐに立っていたって…マラ石はすごいアクティブなチンチンらしい。
そう。英語の先生はこのマラ石のモチーフも含め我々に教えてくれたのだ。
そのため島田くんはともかく同じ水泳部の三上、小杉B、俺らは絶対にここにこようと5時間目の学活から決めていたのだ。そして先生が言った通り
石造物はあまりにリアルだった。実の所その点に一番期待していたので
マラ石スポットを訪れたことは我々にとって大収穫だったと言える。
案内してくれた能勢たちには本当に感謝だ。
能勢はその後小杉Bと三上によってマラ石にまたがって白目を剥かされ写真を撮られていた。同じ班の班員からも写真を撮られていた。
こうして合計5スポットを巡り我々の明日香村サイクリングは幕を閉じた。
12:02
いよいよ本日の昼食である。
本日の昼食は事前にしおりの行動予定表欄に書かれてあった。
柿の葉寿司である。風流である。
10貫入り。上段と下段に分かれ下段は柿の葉寿司ゾーン。
サーモン、後は白身、合計三種の魚の切り身が酢飯の上に乗り柿の葉に包まれていた。上段は寿司ゾーン。漬物が入っていたり巻物が入っていたりしてた。
とても美味しかった。酸っぱいのがよかった。
やはり旅の途中に流した汗で塩分が消費されたからだ。
あれ。
だったらしょっぱくないとダメか。もういいやわからん。なんか美味しかった。
俺は水泳部が集まる班で食べていた。能勢や小杉Bも普通に食べていたが一名
おかしな様子の人物が。そう、三上だ。手をつけようとしない。
ずっと支給された「おーいお茶」の川柳詠んでる。
え、三上って柿の葉寿司嫌いなの?
俺「三上って柿の葉寿司嫌いなの?」
三上「あぁ、無理だね。生魚は。」
ということは寿司が嫌いなのか。そうなんだ。
3年間付き合って初めて知ったのでちょっと驚いた。
長い午前が終わった。ここからは午後のイベントに入っていく。
午後のイベントは「法隆寺」。リアル法隆寺をガイドさん同伴で見学しに行く。
法隆寺。607年に聖徳太子が建てた日本史上発の木造建築であり日本発の世界文化遺産。しかしここで残念なお知らせ。
実は法隆寺でのカメラ撮影は禁止。あまり動画が撮れなかったので
前述の明日香村サイクリング程の描写の丁寧さはありません。
多分2ページくらいで終わる。ごめんなさい。
それではご了承し終えたところで先に進みたいと思います。
14:04
法隆寺見学にあたってはクラス一組に一人ガイドさんがつく。
東大寺見学時と同じ要領だ。しかし違った点が一つあった。
ガイドさんが超おじいさんだったのだ。
俺は東大寺の時と同じ若い男性かと思っていたので
思わず岐阜にいるいとこのセリフを発してしまった。
「おっさん!」
まず法隆寺に行くまでとても長い一本道を歩いた。
もちろん道路は舗装されていてるし長さも常識の範囲内だった。
細かく道について描写するのはまだサイクリングの山奥の道なき道のトラウマを引きずっているからのようだ。すいません断ち切ります。
でかい門を通る。そこが受付で一人一人チケット代わりにパンフレットをもらう。
小杉Bはもらった直後俺のバックに突っ込んだので俺は保存用と使用用の二つ、
パンフレットを手にいれた。
その後集合写真を撮った。
シカがいた東大寺の集合写真時もそうだったが
小杉Bが必ず腕を俺の背中の上に乗せてくるのだ。
本人は肩を掛け合ってると言っているが、肩掛けというものはそもそも身長差があったらできない。もし俺が小杉Bと同じ身長だったら喜んで肩を掛け合ったが
現実では小杉Bの肩はマウナケア山並みに高い。結局俺は肩をかけられず小杉Bだけが肩をかける形となりシャッターが押される頃には俺の体に小杉の腕がのしかかる構図がめでたく出来上がるのだ。
続く
PS全編通して大きな下ネタの山場はあと1回だった気がする。